日本家屋に使われる自然素材
日本の家づくりには、昔から木材、漆喰、畳、紙、瓦などの自然素材が使われてきました。これらの自然素材には、共通して、室内の環境を調える手助けをする性質があります。
自然素材によって調えられた室内環境は、家族の健康維持を支えます。自然素材は、どの素材も空気を含んでいます。その空気の働きによって生まれる作用が、室内の環境に影響を与えるからです。自然素材に共通する性質について、確認していきましょう。
調湿性
調湿性は、空気中に含まれる水分を調整する働きをします。四季のある日本では、梅雨から夏にかけては高温多湿になり、冬は乾燥します。
調湿性のある自然素材は、空気中の水分が増え、湿度が高くなると、その水分を吸収し、空気が乾燥すると、蓄えた水分を空気中に蒸散します。その結果、自然素材が使われた家の中では、常に適切な湿度が維持されます。
では適切な湿度を維持することが、どのように私たちの生活に影響するのでしょうか?そのうちの一つは、湿度が体感温度に大きな影響を与えるということです。
天気予報でも、エアコンのお知らせ機能でも、温度は常に表示されていますが、実際の体感温度とは異なります。そして体感温度こそが私たちに快適さ、不快さを感じさせるのです。
夏の暑さは湿度が高まると、より体感温度が上がります。同じ温度であっても、カラッとしている暑さより、蒸し暑さの方がより暑く、不快に感じます。湿度が高いと、汗が蒸発せず、体温が下がらないからです。
冬は、空気が乾燥しているので、汗がすぐ乾き、体温が奪われるので、より寒く感じます。適切な湿度が維持されている家の中では、夏は汗が乾きやすく、冬は乾きにくくなるので、体感温度と室温の差が抑えられ、快適に過ごせます。
夏、汗ばんだ体で畳にゴロンと横になったり、素足でフローリングの上を歩いたりしても、サラッとした感覚がするのは、自然素材の持つ調湿性の働きがあるからです。
加えて、湿度の高い時期には、カビの発生が抑えられるので、カビやダニが原因のアレルギーを、発症する心配がありません。乾燥する時期には、肌や粘膜の炎症が抑えられます。
蓄熱性
蓄熱性は、陽射しの暖かさや、暖房の熱を内部に蓄える働きをします。そして、自然素材は内部に蓄積した熱を、温度が低下してくると、室内に放出します。
その働きによって、自然素材を使った家では、日が落ちた後や、暖房を止めた後に、急激に温度が低下することがありません。冬、壁や床がヒヤッとせず、温もりを感じるのは、自然素材の持つ蓄熱性によるものです。
弾力性
自然素材の内部の空気は、自然素材を使った床や壁に弾力性も持たせます。まだ、伝い歩きをしているような子供が、転んでしまったとしても、高齢者が躓いてしまったとしても、身体への衝撃がやわらげられます。
日常生活での動作が関節に与える負担は、特別なことをしない限り、自覚することはありません。しかし、長年の蓄積を考えると、硬い床で生活するよりも、弾力性のある床で生活する方が、関節への負担は少なくできます。
風合いの良さ
新築時、木材や畳は清々しい風合いと爽やかな香りを放っています。そして、時間が経つにつれ、木材は紫外線を吸収して、味わい深い色合いに変化していきます。
畳は適切なお手入れを続けていれば、常に新築時の清々しさを取り戻せます。同じ自然素材でも、織物クロスや紙クロスは紫外線によって経年退色しますが、漆喰の壁は紫外線を吸収しても、褪色せず、新築時の風合いの良さが持続し、無垢材の壁は、味わいのある深い色合いに変化していきます。
日本家屋の特徴と現代の生活と融合させる工夫
日本家屋には、日本の気候に合わせた昔からの大工の知恵が活かされています。その中には、現代の住宅にも採り入れたい要素が、たくさん含まれています。
木造軸組工法
木造住宅の工法にはツーバイフォーもありますが、昔から最も多く採用されてきた方法は、木造軸組工法です。柱と梁で構造部を造り、筋交いの入った耐力壁で補強するという工法です。
内部の壁の位置は自由に動かせるので、新築時はもちろん、将来的に間取り変更をする際にも、自由度が高いことが大きな魅力です。頑強な構造部と可変性のある間取りが、子や孫の代まで暮らせる家を造り出します。
もう一つの魅力は構造美です。柱や梁を見せる真壁造りによって、構造の美しさと木材の美しさが、風格のある室内を創り出します。
壁の仕上げには、大壁と真壁があります。大壁は構造材を全て隠す造り方で、洋風な住宅には採り入れられることの仕上げです。真壁は、柱や梁を見せる伝統的な壁の仕上げです。
和室
畳の部屋がない家も増えてきましたが、畳の部屋は様々な用途に使えます。例えば、リビングの続き間に和室があると、子育て中には、急に子どもが眠ってしまった時に、すぐに寝かせられます。畳は柔らかさがあるので、ヨチヨチ歩きの子供でも安心して歩かせることができます。
リビングと和室の間に引き戸を設けてあれば、普段は開放してリビングの延長として使い、来客時には引き戸を閉じて、客間としても使えます。
土間
日本家屋には広い土間がありました。現代では、玄関に最小限の土間があるだけという住宅も少なくありません。しかし、玄関の土間の広さは、玄関に風格を持たせ、暮らしのゆとりを演出します。
玄関土間を広くし、ベンチや観葉植物を置いて、小さなカフェのようにするなどの楽しみ方もあります。土間収納を設けると、スポーツ用品やベビーカーなども収納できます。
また、土間は、玄関以外の場所にも設けることができ、多様な使い方ができます。庶民の家には、玄関がなく、台所土間から出入りする家が多かった時代もありました。現代では、玄関とは別に、キッチンと土間を繋げるという間取りは、採り入れてみたい要素の一つです。
子育て中には、土間のダイニングは、子供が食べこぼしなどをしても、汚れが沁みにならず、簡単にきれいに掃除ができる、夏は掃き出し窓を開け放ってアウトドア的な食事を楽しむなどの良さがあります。
その他には、勝手口に土間を広くとり、雨の日や、花粉の飛ぶ季節には、洗濯物を干すスペースとして活用するという造り方もあります。
軒
近年はモダンなデザインの住宅が増え、深い軒のついた家は、昔ほど多くはありません。しかし軒には、日射を遮蔽し、外壁を守る働きをするので、現代風の住宅にも採り入れたい要素です。
軒は、季節ごとに変わる太陽の高さを計算して、深さが決められます。太陽の位置が高くなる夏には、強い陽射しを遮蔽して、室内の温度上昇を抑え、太陽の位置が低くなる冬には、家の奥まで暖かい陽射しを採り入れます。
加えて、紫外線や雨風から外壁を守り、家の寿命を長持ちさせるという役割も担っています。そして、軒下に使われる木材の質感が外観デザインをより良くします。
縁側
日本家屋の魅力の一つは縁側ではないでしょうか?部屋と庭を繋ぐ板張りの縁側は、庭の景観を楽しめる場所でもあり、お客様を部屋まで案内する廊下でもあり、寒さ暑さを緩衝するスペースでもあります。
日本家屋の良さを活かした家づくりをしませんか?
日本国内では、土地の価格が上昇し続けていることから、ここ数年は、住宅の床面積が減少している傾向にあります。その為、広い土間や縁側を採り入れない間取りがほとんどです。モダンな住宅が増え、畳の部屋や深い軒のない家も多くあります。
しかしながら、床面積の余裕があればもちろんのこと、床面積に余裕がなくても、工夫次第で日本家屋の良さを採り入れることはできます。日本の気候、日本人の暮らし方にあった日本家屋の良さを家づくりに採り入れてみませんか?